第11回インタビュー 水島新司「あぁ野球狂」「北の狼・南の虎」

――京建輔さんは、これまで様々なタイプの音楽を手がけられてこられましたが、今日はそのなかでも珍しいジャンルについてお聞きしたいと思います。京さんが作・編曲された「快傑ズバット」や「科学戦隊ダイナマン」など子供向け番組の楽曲については、このインタビューですでに取り上げましたが、今日は野球漫画の第一人者・水島新司さんに関連した音楽にスポットを当てたいと思います。メインは水島新司さんご自身が歌ったシングル盤「あぁ野球狂」「草野球ニュース」、それにTVアニメ「野球狂の詩」の中の「北の狼・南の虎」の劇伴についてお伺いします。どうぞ宜しくお願い致します。

 こちらこそ宜しく。

「あぁ野球狂」(A面)/「草野球ニュース」(B面)AK-122 日本コロムビア
1978年4月10日 発売
作詞:水島新司 補作詞:吉岡治 作・編曲:京建輔 歌:水島新司
(ああ野球狂アナウンス:西村正子/草野球ニュースアナウンス:西村哲男)

――水島さんの「野球狂の詩」(『週刊少年マガジン』1972年~1976年掲載)や、「ドカベン」(『週刊少年チャンピオン』1972年~1981年掲載)は30年以上たった今でも高い人気を誇る野球漫画ですが、このシングル盤「あぁ野球狂」を作られたとき、水島さんの漫画はご存知でしたか?

 「ドカベン」の名前はもちろん知ってましたし、「野球狂の詩」も野球をテーマにした漫画であることぐらいは知っていました。ただ中身については恥ずかしながら詳しくは・・・。

――野球のほうは?

 少年時代から野球はほとんど興味はありませんで、私は(笑)。

――音楽のほうにあったんですね?

 野球に出てくる専門用語、例えばダブルプレイだとかスクイズだとか、まったく意味が解りませんでした。

――少年時代にプレイしたことは?

 ゲームに参加したこともなかったですね(笑)。

――キャッチボールなども?

 それもないんですよ。二人の息子が小学生だった頃、キャッチボールもしなかったほどで(笑)。

――ではまず、「あぁ野球狂」を聴いてみましょう。(「あぁ野球狂」を聴く)久し振りにお聴きになって如何ですか?

 今はこんな風に書けないなー(笑)。
あらためて聴くと水島さん、なかなか上手に歌ってらっしゃいますね。

――しっかりとした声で、音程も良いですね?

 高い声も水島さんは出るほうで、上はEの音まで出せました。

――イントロを聞くと高揚感がすぐに湧いてきて、これぞ水島野球の歌という雰囲気になりますが、この企画を京さんにもってこられたのは?

 コロムビアの木村裕史(通称・木村ジュニア)さんです。

――京さんが「快傑ズバット」(1977年3月発売)の作・編曲をなさった時と同じディレクターさんですか?

 そうです、「快傑ズバット」を作った翌年になりますか。

――作・編曲するにあたって、木村さんからの要望はありましたか?

 舟木一夫さんの「高校三年生」のような感じで、という指定があったように記憶してます。

――そういえばイントロは、主役の楽器がマンドリンで、聞いていると「高校三年生」の香りがしますね?

 それと、古関裕而さんのNHKのスポーツ番組のテーマ曲みたいな、「これから始まるぞ」というワクワク感を出すようにしたと思います。

――それで胸が高まるような感じがするんですね?

 さっき「あぁ野球狂」のスコアを探してきましたので、ちょっと見てみましょうか。

――録音日、わかりますか?

 えー、1978年3月10日ですね。

――すると発売が4月10日ですから、録音して1ヶ月後には発売になったということになりますが、随分と急な発売でしたね?

 臨発(臨時発売)ということだったと思います。

――レコード会社が相当気合を入れて発売に臨んだということですね?

 水島さんご自身の歌という企画だったからでしょうね。ただ、そのあたり(発売日)のことは詳しく覚えてないです(笑)。

――録音スタジオは?

 テイチク会館ですね。

――コロムビアのスタジオでなく、テイチク会館でしたか。
虎ノ門のビルの上にあったスタジオですね?

 編成はドラム、ベース、ピアノ、ガットギター、エレキ・ギター、マンドリン、フルート、グロッケン、トランペット、ラテンパーカッション、そして弦が6422(ろくよんにーにー)ですね。

――バックに男声コーラスと少年合唱団が入っているようですが?

 そう、これは後で足したんでしょうねー。あまり記憶が定かじゃないなー(笑)。
詞が5番まであって、最後の5番になるとリズムを変えているでしょう。

――ドラムがスネアをロールして勇ましくて、これが最後(の詞)の回だよという感じが出てますね?

 最後はフェードアウトしていくんですが、その前に水島新司さんが「草野球は永遠に不滅です」という台詞があってドラマチックに仕上がってる。

――「永遠に不滅です」というフレーズは長島茂雄さんの引退式の台詞とダブらせてるんでしょうね?

 2番の歌詞の最後の「そうづら殿馬」や三番の「水原勇気」、四番の「岩鬼も負ける ピッチャーゴロを」、そして五番の「戦えドカベン 心のあぶさん」というのは、それぞれ意味があると聞いてはいたんですが、私には解りませんでして。

――「そうづら殿馬」と「岩鬼」「ドカベン 心のあぶさん」は「ドカベン」、「水原勇気」は「野球狂の詩」のそれぞれ主役や副主役の名前です。

 ついでに教えてください。四番の歌詞に出てくる「土橋や大友」というのは?

――草野球の軟式野球育ちなのに、その実力を買われてプロ野球にスカウトされ、大活躍した実在の大投手の土橋工さん、それに大友工司さんのことです。

 今更だけどネットで調べて、二人のことをちょっと勉強してみましょう(笑)。

――水島新司さんは、そういう主役などを詞の中に散りばめて、そして自ら歌われたんですから、さぞかし気持良かったでしょうね?

 男冥利に尽きるということでしょう(笑)。

――水島さんの歌の録音時は盛り上がりましたか?

 それが立ち会えなかったんですよ。多分スケジュールが合わなくて。今思うと、とても残念です(笑)。

――「ドカベン」や「野球狂の詩」の熱狂的なファンは、この「ああ野球狂」をカラオケで歌うそうです。魅力ある固有名詞が沢山出て来るのが、たまらないんじゃないでしょうか?

 私も今度リクエストしてみましょう。うちのカミさんが歌うかもしれないなー。

――ではB面の曲「草野球ニュース」に移りたいと思います。
この曲も「あぁ野球狂」と同じ日の録音でしょうか?

 そうです。編成はドラム、ベース、ピアノ、エレキ・ギター×2、ピッコロ、クラリネット、テナー・サックス、トランペット×3、トロンボーン、ラテンパーカッション、弦が6422です。

――随分と豪華な編成ですね。
ではこの曲を聴いてみることにしましょう(『草野球ニュース」を聴く)。
曲にアナウンスが随所に出てきますが、アナウンスをされた田村哲男さんについて何か覚えていらっしゃいますか?

 特に覚えていません。ただこの曲のタイトルが「草野球ニュース」ではなかったことはよく覚えてます。

――え、そうですか、スコアには何と書いてありますか?

 「花の空中イレギュラー」ですね。

――最初のタイトル名ですね。全く違うタイトルだったんですね?

 アナウンサーの実況の台詞では、敵の打った球を追いかけて、味方の選手同士が空中でぶつかって、とんでもない展開になっていく状況を伝えているでしょう。ということは・・・。

――最初はそういったストーリーを生かして、面白いタイトルにしようと考えたんでしょうね?

 ただ周りの意見があって、発売前に急遽「草野球ニュース」に変更したのでしょう。「空中イレギュラー」なんてタイトルは、水島新司さんらしくて良いんですがね(笑)。

――水島新司さんと最初にお会いになったのは?

 曲ができたので、それを第一音楽出版の只野さんに連絡したんです。その2、3日後の夕方に突然、水島新司さんがうちへ来られたんです。

――世田谷(当時)のご自宅にですか?

 「草野球ニュース」も「あぁ野球狂」も出版は第一音楽出版でして、その時の担当が只野さんという方なんです。「北国の春」などでお世話になった。

――その只野さんが水島さんを連れて来られたんですね?

 水島さん、リッチな黒の毛皮のコートを着てまして、スタッフと併せて5,6人だったかな。曲ができたことをとても喜んでました。どんな曲ができたか知りたかったんでしょう。

――水島さんが京さんのご自宅で歌の練習をされたんですか?

 覚えも良かったと思います。詞と歌の感じを確かめて、それで録音に備えようとされたんでしょう。でも、その後が凄かった。
うちのカミサンの作った料理を突っつきながら、スタッフの方々と一杯やり始めたんです。ただ水島さんはお酒を飲まれないんです。コーヒーを20杯ちかくもお替りされて、煙草をスパスパ吸いながら、翌朝まで色んな話をしました。スタッフの方々はもう疲れてゴロ寝でした。

――翌朝までお話を?

 2月末頃ですから日の出は遅いでしょう。それで外はもう薄明るくなってました。6時頃だったかなー。

――随分と長時間の夜会でしたね?

 うちのカミさんも朝まで付き合って。そしたらカミさんのキャラクターが面白かったのか、今度「あぶさん」(1973年~2014年〈ビッグコミックオリジナル〉小学館)に登場させようかなー、と水島さん言ってました。

――景浦安武のあの「あぶさん」にですか!どんな役で登場されたんですか?

 それがその後、どんな役かチェックもしなかった。リップサービスだったのかもしれないし。それで、それきりになってしまった(笑)。

――それは残念でしたね。調べればわかるかもしれませんが?

 しばらくすると、うちの息子に「あぶさん」の漫画本にご自身のサインを全部したものを沢山送ってこられました。

――それは凄い、宝ものですね?

 水島さんが来られた日に、上の子がまだ相当小さくて、ドカベンの水島新司さんが来たよと言っても、「ウソダ」と言って信じない。画用紙に野球狂の漫画をサラサラっと描いてくださって、それを手にしても「色が付いてない」なんてダダをこねたりで大笑いでした(笑)。

――それは随分と中身の濃い一日になりましたね?

 思い出いっぱいというところですね(笑)。

――それでは「北の狼 南の虎」に移りたいと思います。

野球狂の詩 オリジナルサウンドトラック本命盤 COCX-34639-40
2008年2月6日発売 日本コロムビア

――ではここで「野球狂の詩」の中の「北の狼・南の虎」の劇伴についてお伺いします。
水島新司さんの漫画「野球狂の詩」は1972年から1976年まで「少年マガジン」(講談社)で連載されましたが、その後TVアニメとして1977年から1979年まで放送(フジテレビ系)されました。

 「野球狂の詩」は、全25話からなるシリーズもので、全体を通して音楽を私の尊敬する渡辺宙明さんが担当されましたが、私は「北の狼 南の虎」という、第13話と第14話のシリーズを担当しました。

――「北の狼 南の虎」は人気が高く、1979年9月には前、後編をまとめて劇場でも公開されましたね?

 「未来少年コナン」と同時上映しましたが、どちらも人気でしたね。子供と一緒に映画館に見に行ったんですが、満員で座れなくて、そのまま帰宅しました。今でもよく覚えてます、子供とカミさんに怒られて(笑)。

――それより前の1977年には「野球狂の詩」を日活が実写映画で公開していますね?

 TVアニメの主役・水原勇気の声を担当した木の内みどりさんが映画でも主役を務めましたね。

――水原勇気は東京メッツの女性の投手で主役として大活躍するんですが、この「野球狂の詩」では彼女以外にも多くの主役的キャラクターが登場しますね。中でも「北の狼 南の虎」はシリーズ中特に人気が高く、そこに登場する主役が双子の兄弟ということですね?

 幼くして母親に捨てられる生い立ちの、どちらも男の子で。

――双子の兄弟は、それぞれ違った親に、全く別の場所で育てられ、どちらも才能ある野球選手として成長し、最後にはプロ野球の宿命のライバルとして戦うというストーリーですね?

 北の狼こと東京メッツのエース・火浦健は北海道育ち、南の虎ことタイガースの強打者・王島大介は九州は阿蘇育ち。それでタイトルが「北の狼 南の虎」という日本を二分したような凄い名前なんでしょうね。

――場末の定食屋で働くお加世おばさんが、実は双子の母親なんですね?

 火浦健のすぐ傍にお店があって、相談役など重要な役割を務めるというシチュエーションが凄い。

――野球漫画が単にTVアニメになったというようなものでなく、人間ドラマとしても大きなテーマをもった作品ですね?

 「北の狼 南の虎」が、子供から大人まで楽しめるTVアニメといわれた理由もわかりますね。

――さてお聞きします。「北の狼 南の虎」の劇伴のお仕事を依頼されてこられたのは?

 コロムビアの小野さんです。コンテをいただきまして、それをもとに書くんですが、色々なバリエーションの音楽を要求されました。タイムの指定もありまして、長短併せて60曲ほどを一挙に書きました。

――60曲もですか?

 それが、なかなか大変だったんです(笑)。
というのも、先程お話したように私は野球音痴でしょう。コンテには簡単な絵が描いてあるんですが、補助に野球の専門用語のメモがしてあるんです。絵よりもこちらのほうがむしろメインだったかな

――野球の専門用語ですか?

 意味が解らなくて本当に困りました。
「外野フライでタッチアッップしてホームイン」なんてあっても、どういうことか解らない。

――それで、どうされたんですか?

 しょうがなくて野球に詳しいひとを探して、それでようやく理解することができた。それで(作・編曲で)オタマジャクシと戦うというより、野球の専門用語と戦ってたみたいでした(笑)。

――「北の狼 南の虎」にテーマ曲がありまして、オープニングはタイトルと同じ「北の狼 南の虎」で、エンディングが「かあさんの灯」ですね?

 どちらも橋本淳さんの作詞、中村泰士さんの作曲で、編曲は萩田光雄さん。歌は水木一郎さん。シングル盤にもなって、とても上手にできた歌で素晴しいんです。

――萩田光雄さんというと「シクラメンのかほり」など編曲された方ですね?

 ギターが上手でこの道に入られ、沢山のヒット曲のアレンジをされてます。
山口百恵さんとか、アイドルの作品が多かったですね。

――劇伴の仕事に入るとき、テーマ曲があるという情報はあったんですか?

 なかったんですよ。テーマ曲も劇伴も同時に制作が進行してたのでしょう。
お前は劇伴のほうを頑張ってやればば良いんだ、といったことだったんでしょう(笑)。

――劇伴の中にテーマ曲をフィーチャーしたものがありますが?

 メロ譜をいただいて劇伴用にアレンジしたものですね。

――テーマ曲のメロディーとは知らずにアレンジをしたということですか?

 メロ譜を見ればテーマ曲という情報はなくても、重要な曲だということは十分想像できますから。そのメロディーを生かすように編曲をしたと思います。

――これぞプロということですね。すぐに察しがついたんですね?

 それで劇伴の中に、テーマ曲を私が編曲をしたものと、作・編曲したたものの2種類があるんです。

――ではここで「北の狼 南の虎」の劇伴を聴いてみたいと思います。
このCDは2枚組で1枚目には渡辺宙明さんが担当された「水原勇気編」の関連音楽と劇伴が収録されてます。2枚目に京さんの担当された「北の狼 南の虎」の劇伴が入っているんですね?

 「北の狼 南の虎」のテーマ曲も入っているし、劇中未使用曲も入っているんですよ。

――劇伴未使用曲ですか?

 番組で実際に使われなかった曲ですね。ボーナストラックには「あぁ野球狂」がオマケで入ってますね。
(CDを聴き始める――――――。)

――劇伴ですからタイムも長短あって、曲調も様々ですが、このCDのインデックスにはM1からM69まで曲の番号が振ってあります。このM1とかM2という番号は京さんが録音時にスコアに振った番号と同じものですか?

 いいえ、別ですね、録音の後に音と映像と合わせる作業があるんです。この曲はこの場面で使おう、これはこの場面が展開するときに使おうと、あらためて整理番号が振られるんです。それが放送で使われることになる。それで録音時の番号とは別のものになるということです。

――必然的に劇中未使用曲が出てくるわけですね?

 そう、別に悪い曲ではないんですが。どうしても映像とマッチしないものは外されることになる(笑)。傾向として激しい感じのものが外されてるかなー。

――ほのぼのとしたものが使用されたということですか?

 それとメロディックなものも残ってる。

――劇伴のスコアは?

 ここに用意してますよ。スコアの番号とCDの番号が一致しないので、聴いてる曲がどの譜面の曲ものなのか、探すのが大変です(笑)。

――劇伴の録音はいつですか?

 1978年11月29日ですね。スタジオはコロムビアです。

――CDを聞いていますと、様々な楽器が使われていることが解りますね。
トランペット、クラリネット、エレクトリック・ピアノ、ガット・ギター、フォーク・ギター、エレキ・ギター、マリンバ、ヴィヴラフォン、ヴァイオリンにチェロ、サキソフォンなど
ですが、特にこだわった楽器はどんなものですか?

 そうですね、アルト・フルートは個人的に好きですし、劇伴では大きなインパクトがある楽器だと思って使ってます。あとチェロなどかな。

――トランペットは?

 野球などのスポーツのイメージや、晴れ晴れしい雰囲気を出す楽器としては相応しいですね。トランペットを吹いてくださったのは白磯さんだったかな、(音を聞いて)やっぱり荒尾正伸さんですね。

――透明度の高い伸びのある音がとても素晴しいですね?

 この頃スタジオでは1に荒尾2にロッソという誉め言葉がありましてね。

――ロッソって、イタリアのトランペッターのニニー・ロッソのことですか?

 そう。「夜空のトランペット」などで知られた世界的トランペット奏者です。

――1960年代に沢山ヒットを飛ばしていますね。イージーリスニングやジャズのジャンルで?

 それくらい荒尾さんのトランペットは有名だったんですよ。

――そのほかにもスタジオの兵(つわもの)は多かったんでしょうね?

 そうヴィブラフォンとマリンバの達人の金山功さんとか。

――金山さんのお名前はこのインタビューでもお馴染になってますが、劇伴の録音でも活躍されたんすね?

 とにかくジャズ出身で、こちらの意図をすぐ理解してくださるので、皆さんが本当に素晴しいプレイヤーで、有難かったです。

――さて一般的な話になりますが、劇伴はレコード用の音楽とは違った取り組み方が必要なのでしょうか?

 劇伴はレコードとは基本的に違います。レコードの、演歌などは歌手の歌を生かさなければならない、引き立たせなければならないという大命題がありますから。

――簡単に言うと違いはどのあたりに?

 劇伴はドラマのストーリーの脇役的な存在です。「北の狼 南の虎」などの場合は、先ほど言いましたように、沢山の種類のテーマ音楽をまず作って、画(映像)にあったものが結果的に使われるというプロセスがありますが、劇伴はストーリーをスムーズに気持ちよく運ぶための脇役なんです。

――劇やショウなどでの劇伴はどうなんですか?

 基本的には一緒ですが、監督さんによっては、例えば悪者が登場する前に「ジャジャジャン」といったような音、つまり悪役を象徴する音がほしいと要求されることがあります。

――「悪役の登場でーす」といったテーマ音楽のことですね?

 でも登場人物が悪役で、そういう顔をしているんだから、誰が見ても〈あれは悪役だ〉と思いますよね。ですからそのタイミングでの音楽は私は必要ないと思うんです。

――誰もが悪役だって解りますよね?

 むしろ台詞を喋った後に、悪役のテーマ音楽を流したほうがより印象度は強くなり、悪役というイメージが定着すると思うんです。でも監督さんにそういう提案をすると、突如ご機嫌斜めになってしまったりするケースがあるんです(笑)。

――監督さんの考え方とは正反対ということだからですね?

 悲しいときに、悲しい音楽をバックに流すと、それなりに悲しさは出るでしょう。でも逆に淡々とした音楽を流したほうが悲しみが強調される場合もあるわけです。このあたりの選択が大変難しいんです。ただ音楽に携わる者としては、この選択をいかにするかがとても面白いんです。

――作・編曲家冥利に尽きるということですね。
劇伴の音楽をいかに取り扱うか、もっと言えば、劇伴という音楽次第で、その劇やショウの出来栄えが決まるといってもいいわけですね?

 それと俳優や役者さんの演技の実力・技量もおおいに関係するんです。
例えば、あるシーンで超ベテランの方ならば、音楽がなくても、それで十分な場合があります。むしろないほうが良いことだってあります。ところが全部の方がベテランではありませんから、そういう場合は、演技の手助けをするための音楽が必用になることもあるわけです(笑)。

――演技と音楽の複雑な関係で、千差万別なんですね。最終的に、ストーリーがスムーズに進んで、観客やお客様に満足していただけるようにすることが大切だということですね?

 私の尊敬する、津島利章(つしまとしあき)さんは「鬼平犯科帳」や「三匹の侍」など、TVドラマや映画の音楽を本当に沢山手がけられていらっしゃって、私がお手本としている方です。

――東映のお仕事を随分と沢山されたようですね?

 アメリカのMGMで映画音楽なども担当された凄い方です。津島さんの劇伴、例えば「鬼平犯科帳」では、二つ位の楽器で「ポロポロポン」とやる。でもそれでしっかりと場面が展開していくんです。原作者の池波正太郎さんの「人間は誰しも心の中に悪人と良人が同居している」といったテーマなども見事に表現されているんです。

――劇伴とは特長のある、何かを意味するような音楽だと考えがちですが、むしろそうでないほうが良いということですか?

 昔はそういう傾向があったと今は言っておきましょう。この話は実はそう簡単ではないんです〈笑)。

――日本では映画や劇など、音楽にかける予算が少ないという伝統が戦前からあったということを聞いたことがありますが?

 指定された予算の範囲で、ベストの仕事を皆さんされてきた、そんな歴史が過去には確かにありました。でも最近は随分と事情が変わってきました。

――女性の音楽家の進出も凄いようですね?

 NHKの朝ドラでは、女性の方が大編制の立派な音楽を作られていますね。とても良い傾向だと思ってます。

――「花子とアン」の梶原由紀さんや、「吉原裏同心」など時代劇ものも手がけられている林ゆうきさんなどが大活躍ですね?

 また、我々の仲間の猿谷紀郎(さるやとしろう)さんなど、世界に誇れる若い現代音楽家の方々の動きを見るにつけ、日本の音楽界の将来が楽しみだと思っています。

――劇伴ひとつとっても、長い歴史とそれぞれの状況に合わせて様々なパターンがあり、これが正解だというものが無いということがよく解りました。

 だからこそ音楽が12音しかないのに、無尽蔵の可能性をもった芸術として、人に感動を与えることができるんだと思いますね。これからも良いものを作ることに専念したいと思います(笑)。

――今日は長時間にわたり貴重なお話をいただきまして有難うございました。

 こちらこそ有難うございました。

次回のインタビューをお楽しみに!!
第12回インタビュー

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